高1、5月
ぼちぼち今日あたりからまた再開しようと思ってて、
でもどんな話だったかみんなもう忘れちゃってるじゃないかなと。
そんなわけで、これまでのすべての話の総集編。
これだけ読めば、全部分かる「高1、5月」
つまり今までの話、全部のベタ打ち。
vol.1
2限と3限の間の休み時間。
3組の教室から移動教室に行く途中の廊下。
「あっ、ちょっとごめん。待ってくんない。
俺、5組のミサワ
バドミントン部の江藤さんでしょ?
あのさ、これ読んで貰えないかな?お願い。」
「えっ!?えっ? あっ、うん。」
「ありがとうっ。迷惑じゃなかったら返事頂戴っ。じゃあっ。」
「何!?何!?何!?
今のって応援部のミサワくんでしょ?
京子、ミサワくんとなんかあったん?」
「ないよ。今、さっき初めて話した。
あの人ミサワくんって言うんだ。
この前、総体の壮行会の時に哲夫と一緒に体育館のステージに上がってた人だよね。」
「知ってんじゃんww」
「顔は知ってるよ。同じ学年とは思わなかった。で、名前はさっきはじめて知った。」
「何貰ったの?それ。」
「あっ、なんか折ったルーズリーフ」
「それってあれだよねwww あれwwwwwww なんて書いてあるんだろ。見せてよ。」
「イヤだよ。」
「けちくさいなぁ。見せろってwww」
「い・や・」
「そっかぁ。ミサワくんってキョウの事好きだったんだぁ。
でもこんな風に私達の前でこういうの渡してくって
彼も大胆な所あるよねwww 」
「そんなんじゃないんじゃない?
ほら、うちの部の久美子先輩って綺麗じゃん。
きっと久美子先輩の事を教えてとか、そんな事だよきっと。」
「な、わけないじゃん。分かってるくせに。まんざらでもない顔しちゃってさ。
てか、これで何人目よ?
いいなぁ。キョウばかり男子にモテて。
で、今回はどうすんの?なんて言って断んの?」
「だーからー、そうと決まったわけじゃないじゃん。
何書いてあるかまだ分からないんだし。」
3限目。
移動教室。英語。リーダー。
窓越しに初夏の柔らかい日差しが教室中に差し込む。
午後になると、少し暑さを感じるこの教室だけど、
この時間はまだ心地良い。
1つ前の席に座って眠そうに教科書を見てる入江の髪の毛は
そんな日差しを受けて、キラキラと輝いている。
制服の胸ポケットにしまった
器用に6角形に折りたたまれたルーズリーフを取り出す。
Dear江藤さん
はじめまして。
江藤さん知らないと思うけど俺、ミサワっていいます。
応援部に入ってて、
吾妻中出身で、毎日自転車で学校に通ってます。
この前のバド部の試合、応援に行きました。
あっ、こういう事は書く必要ないのかな?
こういう手紙って初めて書くからなんて書いていいか分からないんだけど、
入学式の後の新入生ガイダンスの時、
俺、江藤さんの斜め後ろに座っていたんだけど、
江藤さんの事見て、カワイイなって思ってから、
それ以来江藤さんのことが気になって仕方なくて、
今日は思い切ってこの手紙を書きました。
もし良かったら俺と友達になって貰えませんか?
よろしくお願いします。
追伸:俺も中学の時、バドやってました。バド大好きです。
あと本が好きです。
村上春樹と伊坂幸太郎と宮部みゆきと湊かなえの本を好きでよく読んでます。
もし良かったら江藤さんの好きなものを教えて下さい。
from ミサワ
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vol.2
ミサワくーん
お手紙ありがとう!
バド好きなんだね。そして本も読むんだね。
バドやるのちょー楽しいよ。
ミサワくんはもうやらないのかな?
今度大会があるから良かったら応援に来てね。
本読むのも好きだけど、
いつも疲れてすぐ寝ちゃうの。
お風呂の中で読む事も多いな。
村上春樹のわけわからない世界好きかな。
太宰治の壊滅的な感じも好きで、暗くなりたいときは読むよ。
今度たこ焼き食べに行こう!
京子
Dear江藤さん
返事ありがとう。
太宰読むの?
俺も大好きなんだよ。
この前の模試に人間失格の一部出たじゃん。
あれさ、全部出して欲しかったよね。
でもそれだと試験にならないか。
もし嫌じゃなければ、2人で会って欲しいんだけどダメかな?
練習忙しい?
fromミサワ
Dear江藤さん
昨日はありがとう。
たこ焼きすごい美味しかった。
学校の傍にあんなお店があるんだね。
俺の家って北条だから学校の傍の事はなんにも知らなくって。
生まれて今までに食べてきたたこ焼きの中で1番美味しかったよ。
昨日のたこ焼きは。
なんかさ誘っておいてアレだけど、
二人っきりなんかで会って
上手におしゃべり出来なかったらどうしようって思って緊張してたけど、
おしゃべり出来て良かった。
てか、江藤さんたこ焼き食べながら、
真剣な顔して、
「ミサワくんは人間失格が好きなの?
私は人間三角だけどね。」
なんて言うんだもん。
一気に緊張なんてとれちゃった。
ありがとう。
昨日も話したけど、今度の総体の応援。
応援部としては、どの時間にどの会場に応援に行くかまだ決まってないんだって。
江藤さん達の会場って土浦一高だっけ?
そこに行くって決まればいいんだどなぁ。
fromミサワ
ミサワくーん
こちらこそありがとうね。
私もミサワくんの事あんまり知らないし、
もし恐い人だったらどうしようって一昨日はちょっとドキドキだったよw
お店行く前に哲夫に聞いたんだよね。
ミサワくんってどんな人って。
応援部の哲夫、知ってるよね?
私と哲夫は中学一緒なんだよね。
哲夫言ってたよ。ミサワはすごいいい奴って。
てか、君は大げさだなぁ。
「今までに食べてきたたこ焼きの中で1番美味しかった」
あんなたこ焼きどこにだってあるでしょ?
でもあそこのたこ焼きは美味しいよね。
なんか一昨日は気付いたら私ばっかりおしゃべりしてたね。
ダメなんだよぁ私。
小さい頃からおしゃべりだって言われてさ、
通知表にも書かれた事あるんだよ。
「まだまだおしゃべりが治りませんって」
そうそう、話してる時に言ったけど、
江藤さんなんて呼ばなくていいから。
キョウでいいから。
みんなそう呼んでるし。
ねっ。
京子
ミサワくーん
昨日もありがとう。
楽しかったね。
ホタテの入ったたこ焼きがあんなに美味しいなんて思わなかった。
私、食に対してはすごい保守的でさ、
ミサワくんがアレ食べてみようと言ってくれなかったら、
私はきっと死ぬまであのたこ焼きは食べなかっただろうなって思う。
あっ、あれ、タコ入ってないんだよね。
なんて呼ぶんだろう?
ホタテ焼き?ww
昨日話して思ったんだけど、
ミサワくんって本当に本が好きって言うか、
村上春樹の事が好きなんだね。
「僕は『風の歌を聴け』の中の台詞
何も見なくても全部言える」
って真顔で言った時笑っちゃった。
私も好きだよ。あの話。
鼠が誰も死なない小説を書くんだって所が好き。
鼠の小説には優れた点が2つある。
まずセックス・シーンのないことと、
それから一人も人が死なないことだ。
放って置いても人は死ぬし、女と寝る。
そういうものだ・・・だっけ?
なんてねww
この手紙書くに当たって、ミサワくんに笑われないようにと思って、
久しぶりに読み返しちゃった。
ミスチルの曲にも似たような歌詞があるの。
ヒーローって曲で、
「ダメな映画を盛り上げる為に簡単に命が捨てられてく
違う僕らが見ていたいのは希望に満ちた光だ」って。
あっ、私、ミスチルが大好きなのね?
ミサワくんは好きなアーティストっているのかな?
京子
ミサワくん
あのね、今日はちょっと真面目な話。
言ってなかったけど、私、おつきあいしてる人がいるの。
同じ学校の人じゃないんだけどね。
なんて言うかその人が
私がこうやってミサワくんと二人で会ってるの
面白くないって言っててさ。
ミサワくんもこの前話してた時言ってたよね。
こうやって、頻繁に二人で会っても大丈夫なの?って。
私、あの時のミサワくんの言葉はピンとこなかったんだけど、
こういう事なんだね。
もしかして、ミサワくんも彼女がいたりするのかな?
彼氏が言ってる事、あんまりよく分からないんだけど、
なんかもう二度としないでみたいな風に言われちゃってさ、
とりあえず、二人で会うのはやめた方がいいのかなと。
へんてこな手紙でごめんね。
あっ、貸してくれた伊坂幸太郎の「アヒルと鴨のコインロッカー」読んだよ。
すんごい面白かった。
京子
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vol.3
雨の匂いがする。
私達はいつも外階段になっている校舎の非常階段の所でお弁当を食べる。
入江と、みーと、私。
高校に入って同じクラスになって、
それ以来ずっとお昼休みはこうしてここで3人でお弁当を食べてきた。
みーは今日は委員会の仕事でいない。
2人で食べるお弁当は3人で食べるお弁当とは何かが違う。
何が違うか上手に言えないんだけど、
玉子焼きの味がほんの少しだけぼんやりするような、そんな感じがする。
ママが作る玉子焼きはいつも同じ味のはずなのに、
こんな風に感じてしまうから不思議。
入江と2人でごはん。
入江は中学校からの友達。
4限が体育だったせいで、
汗ばんだカラダが少し気持ち悪い。
体育の後、洗顔で顔は洗ったし、アルコールティッシュで気になる所はざっと拭いたけど、
家に帰ってシャワーを浴びるのとではやっぱり全然違う。
私はぼんやりミサワくんの事を考えてた。
ミサワくんとこの前借りたアヒルと鴨の感想について話したいなって。
「ねぇ、キョウ、キョウってミサワくんとつきあってんの?」
自分の気持ちを見透かされたような入江の言葉に驚く。
「なんで?」
「みーが聞かれたんだって。5組にいる同じ中学の友達に。
放課後時々2人で歩いてるの見かけるけどあの2人どうなってるのって。」
「ミサワくん?うん、練習がオフの日とか、早く終わる日によく遊んでるよ。
でもつきあってるとかそんなんはないよ。」
「そうだよねぇ。キョウにはコウジさんがいるもんね。」
「うん。ねぇ、入江、ミサワくんって彼女いるのかな?」
「なんで?気になんのwwww
よく遊んでるんならキョウが聞いてみればいいじゃん。」
「別にそんなんじゃないけどさー。」
「ミサワくん、この前、街で女の人と歩いてるの見かけたよ。
応援部のマネージャーやってる先輩。
ほら、髪の毛長くて少し派手な感じする人。」
「そうなんだ。その人が彼女なのかな?」
「気になんの?www」
「そんなんじゃないけどさ。」
そんなんじゃない。
でもそうなのかもしれない。
雨の匂いがさらに強くなるのを感じてた。
ミサワくんからはじめて手紙を貰って1ヶ月が過ぎてた。
なんやかんやで、部活がオフの日や早く終わる日はミサワくんと遊んでたから、
結構な頻度で私達は会って、お互いの好きな本を貸し借りをして、
次に会った時に感想を話し合ってた。
小学生の時の秋の遠足。
朝起きてキッチンに行くとママがお弁当を作っていた。
玉子焼きに唐揚げにウインナー。
いつものと同じお弁当。
お弁当箱の半分には白いごはんがつめてある。
ママが作るお弁当は大好きだったけど、
これだけは嫌だった。
白いごはんじゃなく本当はおにぎりにして欲しかった。
おにぎりじゃないなら、せめてごはんに何かかけて欲しかった。
その時私はいい事を思いついた。
庭に行って紅葉の新芽を摘んできて、
白いごはんの上に、今摘んできたばかりの紅葉の葉っぱを乗せて、
その上からふりかけをかけてから、新芽をとった。
お弁当箱の中のごはんの上には紅葉の跡が残った。
私にとってミサワくんはあの時のごはんの上ついた紅葉の跡のよう。
心の中にミサワくんの形がうっすらとだけど、
はっきり残ってる。
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vol4
「なぁ、哲夫、キョウちゃんってどんな子?」
「キョウちゃんって?江藤の事?」
「うん」
「同じクラスで同じ中学だったよ」
「知ってるよwww だから聞いてんだろwww」
「あれれぇミサワくぅん、
どうしちゃったの?キョウの事気になるの?好きなん?
愛しちゃったりしてるの?」
「茶化すなって」
「キョウは見たまんまだよ。
バド命で、ずっとバドばっかりやってたよ。
たぶん小さい頃からやってきたんじゃないかな。
なんか真面目そうに見えるんだけど、実際喋るとアホで面白いんだよな、あいつ。
まぁ、ぱっと見は美人だよな。あくまでもぱっと見な。ぱっと見ww」
「あの子って彼氏いるんだよね?」
「あれれぇwww
やっぱりそういう事なのwww?」
「ちげーって。」
「知りたい?キョウの彼氏の事知りたい?
『教えて下さい、哲夫様』って言ったら教えてやってもいいよ」
「ほら言ってみろよ。
僕はキョウの事が大好きなので、キョウの彼氏の情報を教えて下さいって」
「もういいよ」
「怒んなって。煮干し食べてるか?牛乳飲んでるか?納豆食ってっか?」
「なんで納豆なんだよ?」
「ばっちゃんが言ってた。納豆はカラダにいいって。」
「今、関係ねーだろ。納豆は」
「キョウの彼氏、知ってるよ。俺中学の時同じ部活だったから。
野球部の1つ先輩。センターやってた。
イケメンか不細工で言うと、ちょーイケメンでさ、
めちゃめちゃモテてたよ。後輩の面倒見とかも良くってさ、
男からも女からも好かれてたんじゃないかなぁ。でもな、」
「でも?」
「俺は嫌いだったんだよねwwwwコウジ先輩の事。
あっ、コウジって言うんだよ。キョウの彼氏。」
「なんで?」
「なんでだろう。
会った時からなんとなくこの人嫌だなって思ってたんだけど、
偶然アレ見てからかな。はっきりこいつ嫌いって思ったのは。」
「アレって?」
「ああ、ごめん。つまんない事言っちゃったな。気にするな。
つまりだ、キョウの彼氏は元野球部で、誰からも愛されるイケメンって事。
俺以外の誰からもなwww
そんな気になるなら、告っちゃえよ。好きって言っちゃえよwww
ミサワの事、応援するよ。俺。」
「だから、そんなんじゃねーから。てか、アレってなんだよ?」
「まあいいじゃん。ほら、梓先輩またお前の事見てるよ。
この前、二人で出かけたんだろ?いーなぁ。あんな綺麗な人と二人で遊べるなんて。
で、どうだったん?」
「『好き』って言われた」
「マジで!?」
「嘘」
「いーや、今の言い方、絶対嘘じゃない。マジで梓先輩に告られたん?
お前羨ましすぎんだろ!!」
「告られてなんてないって。じょーだんだって」
「絶対嘘だ。キョウに言ってやろっと。ミサワって梓先輩とつきあってるんだってって」
「殺すぞ」
「ほらまた怒るぅ。キョウの事好きなら好きってちゃんと言えよ。
梓先輩の事をちゃんと教えてくれたら協力してやるよ。」
「うるせーって。もう行こうぜ。練習始まるし。
総体、俺達、どこの会場に行くんかな?」
「ミサワくんはやっぱり、土浦一高に応援に行きたいんだよねwwwww」
「殺す」
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vol.5
「ねぇ、カンカン。カンカン。カンカンったら。待ってよぉ。一緒に帰ろうよ」
「うるせー。お前誰かの前でその呼び方したら殺すから」
「恐ぁ。小さい頃はあんなに可愛かったのに。
あずねーたん。あずねーたんって言って
どこに行くにも私の後ろくっついてきてさ」
「忘れた」
「嘘つき」
「そんな事言うなら、みんなに教えてあげようか?
いつも斜に構えて文学青年ぶってるこのミサワカンジくんはジツはドスケベで、
小さい頃の口癖は『あずねーたん、お医者さんごっこちよう』だったってwww」
「本気で殺す」
「カンカン好きだったよねぇ。お医者さんごっこwww」
「マジ殺す」
「怒った顔もカワイイ。あの頃のまま。ねぇ、また昔みたいにおちんちん触ってあげようか?」
「お前さ、いい加減にしろよ!!もうガキじゃねーんだよ。そんな事されたら」
「されたら?」
「もういいよ」
「よくないよ。ちゃんと答えてよ。この前言った言葉、私本気だよ。
入学式の時、10年ぶりにカンカンの事見た時びっくりした。
えっ、なんでカンカンがここにいるの?この学校にいんの?って。
いるはずないじゃんね。カンカンが茨城になんて。
絶対他人のそら似だと思ったけど、慌てて新入生の名簿めくったわよ。
ミサワカンジって文字見つけた時倒れるかと思っちゃった。
だってもう二度と逢えないと思ってたしさ。
カンカン、大きくなったね。」
「そりゃもう15だし」
「そしてイケメンになった」
「そんな事ないって」
「嘘。自分でも思ってるんでしょ?俺はイケメンだって」
「思ってねーし。ああ、あずねーの事、哲夫が言ってたよ。めちゃめちゃ綺麗な人って」
「えっ?なんて?」
「哲夫があずねーの事、めちゃめちゃ綺麗な人だってさ」
「えっ?聞こえない。もっかい言って」
「聞こえてるだろ。死ねよ」
「あらあら、大人になると言葉使いも悪くなるのねぇ。
ほらあの頃みたいに言ってよ。
『僕はあずねーたんをお嫁たんにつるんだ』って」
「えっ?なんて?」
「『僕はあずねーたんをお嫁たんにつるんだ』」
「それ俺の黒歴史」
「ひどい」
「ねぇ、カンカン。私ねずーっとカンカンの事が好きだったの。
そして今も大好きなの。
カンカンは私の事嫌いなの?もうどうでもいいの?
ちゃんと答えて」
「俺もあずねーの事好きだよ。逢えた時すげーびっくりしたし、懐かしかったし、すごい嬉しかった」
「うん」
「でも」
「でも?」
「あずねーとそういう関係になるのはなんて言うか違うと言うかなんて言うか」
「なんで?」
「うーん・・・上手に言えないんだけど、俺にとってあずねーはあくまでもあずねーであって、
なんて言うか姉弟みたいな感じで、どうしてもあの頃の「あずねーたん」って思いがあってさ」
「いいじゃん。姉弟でも。実際は血も繋がってないんだから。
ダメなの?姉弟でつきあったら。
私はカンカンの事大好きだよ。本当に好き。
もしカンカンが私とつきあってくれるって言うなら、
あの頃みたいな事も沢山してあげるよ。カンカンもして欲しいでしょ?
あの頃みたいなお遊びじゃない奴。」
「あずねー、変わったよね。」
「そりゃね。私も17歳だから」
「そういうんじゃなくって。
でもなんて言うか、あずねーがそんな事言うのなんか俺ショックって言うか
嫌だなって言うか・・・」
「なんで?私はカンカンより大人だよ」
「カンカン好きだよ。大好き。だから私とつきあって。
もしつきあってくれるなら、カンカンのしたい事なんだってしてあげる。させてあげる。
ねっ、カンカン」
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vol.6 火
Dearキョウちゃん
そうなんだ、彼氏いたんだ。
こっちの方こそ、なんかつきまとっちゃってごめんね。
彼氏怒ってたのかな?
本当にごめん。
もしもだよ、会うのが二人じゃなければいいのかな?
例えばさ、会う時は哲夫と3人で会うとか。
それなら許してくれるのかな?
これって屁理屈なのかな?
たこ焼き屋会談、
楽しかったなぁって思って。
突然あれがなくなるのかと思うとなんて言うかその
こういう時、村上春樹ならきっと上手な比喩をつかって
上手い事言うんだろうな。
fromミサワ
ミサワくーん
お手紙ありがとう。
嬉しかったよ。
あんんな事書いたらもう話してくれないかもと思ってたから。
哲夫くんを使うってのはやめておこうよ。
利用してるみたいで哲夫くんに悪いし、
なんか嘘ついてるみたいで私も気持ち悪いし。
でもさ、もし良かったらまたこうやって手紙書いてもいいかな?
調子いい事書いてるのは分かってるよ。
でもミサワくんと話すの楽しくて。
まだ返してないけど、アヒルと鴨のコインロッカー読み終えたよ。
ミサワくんが胸をはってお勧めって言うだけあって、
本当に面白かった。
でも、あの本の題名はなんで「アヒルと鴨とコインロッカーなんだろう?」
お話の中にアヒルも鴨も出てこないよね?
京子
Dearキョウちゃん
手紙ありがとう。
そっか。そうだよね。哲夫に悪いよね。
アヒルと鴨については、
外来種であるアヒルがあのブータン人の事で、
日本産である鴨が主人公達の事なんじゃないかなって俺は思ってた。
コインロッカーはほらアレだよ。最後のアレだよ。
分かったかな?
これを踏まえてもっかい考えてみよう。
キョウちゃんはデキる子!!
なーんてね。こんな書き方意地悪かな?
今回貸した本もむちゃくちゃ面白いよ。
fromミサワ
ミサワくーん
こんにちは。
今日さ不思議な夢をみたの。
夢の中で私はしろくまになってて、
大きな氷の上で丸まったりしてたんだよ。
そしたら、仲間のクマ達がやってきて私を見て口々に
「小さい」「小さい」って言うの。
ミサワくんって当然夢占い出来るよね?
だって、本読んで、私が気付かない色んな事気付くんだもん。
これってなんのメタファーなのかな?
ごめん。
この前のミサワくんの手紙の中で書いてたメタファーって言葉が面白くてさ。
そんな言葉普通に使う人いるんだって。
なんかルー小柴みたいって。
ねぇねぇ、なんのメタファー?
本はごめんね。
まだ全然読めてないや。
大会近いからか、最近練習厳しくてさ。
家帰るとお風呂入ってバタンキューで寝ちゃってる。
最近全然勉強も出来てないや。
定期テスト恐いな(>_<)
京子
Dearキョウちゃん
本はいつでもいいよ。
時間がある時読んで。
てか、体育会系の部活と勉強の両立って凄いなぁと思うよ。
大変じゃない?
応援部なんて体育会って言ってるけど、
大して練習なんてしてないしさ。
すごいなぁって思うよ。
バド頑張ってね。
そうそう、産休で生物の先生変わったじゃん。
丸川先生も伊坂好きなんだってさ。
授業中読んでたら見つかっちゃってさ、
叱られると思ったら、
「私もこの本大好きなの。4回読み返しちゃった」だってさ。
変わった先生だけど、ああいう先生いいなって思ったよ。
fromミサワ
ミサワくん
進研模試の結果どうだった?
私はうわぁあああああああああん(>_<)
これどうしよう。
親に見せられないよ。
バドやめろって言われちゃうよ。
京子
ミサワくーん
聞いて。
今日ね、総体のレギュラー発表だったんだけど、
私選ばれたよ。
1年生でレギュラーになれたの私だけ。
すごいでしょ?
本当言うと、ほんの少しだけ自信あったんだ。
えへへ。
嫌な奴かな?
ダブルスは久美子先輩とペア。
知ってるよね?久美子先輩。美人で有名だもんね。
応援部はスケジュール決まったのかな?
応援に来て欲しいな。
京子
増えていく六角形に折りたたまれたルーズリーフ。
貰った手紙はすべて大切なものを入れる箱にしまっている。
小さな小さな箱はあっという間にいっぱいになった。
大切な物。
それは、寝る前に書いたり、退屈な授業の合間に書いたり。
二人では会わないと決めてから、直接話す事はやめた。
学校内で会っても、他人のふり。何食わぬ顔して通り過ぎる。
大切なものを作ると、
私は、僕は、三沢って書かれたら下駄箱の中に、江藤って書かれた下駄箱の中に、
その大切なものをそっと置いてきた。
授業の合間にクラスメイトの目を盗んで下駄箱に行く。
いつからかこれが僕の、私の、高校生活の一番の楽しみに変わってた。
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vol.7
「江藤さん、江藤さん、廊下に3年生の先輩が来てるよ。
江藤さん呼んできてって。」
「あっ、うん。ありがとう。誰だろう?」
「名前分からないけど、応援部のマネの派手な先輩」
「あー。」
「キョウどうしたん?なんかしたん?
応援部の人になんで呼び出されたりすんの?」
「わかんない。でも私に用事あるみたいだから行ってくるね。」
「私も一緒に行ってあげようか?」
「ありがと。でもみーは委員会の仕事あるんでしょ?
大丈夫だから。一人でwww」
「そっか。心配だから、なんだったか後で教えてね。」
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vol.8
「あずねー、もういっかいしようよ」
「さっきしたばっかりじゃん。
カンカンは本当にエッチなんだから。
あの頃と一緒だね。
そうそう、今日のお昼に会ってお話してきたよ。
カンカンの大好きな江藤京子ちゃんと」
「えっ!?」
「カンカンと私はつきあってるから、
もう邪魔しないでって言ってきたよ。
そうそう、あの話も教えてあげた。
カンカンは私にこうやっておへその下舐められるのが大好きなんだって事もね」
「京子ちゃん真っ赤な顔してたなw。
でもああいう子に限って、裏では色んな事してるんだから、
カンカンも気をつけなきゃダメだよ」
「何!?
怒ったの」
「私は嘘なんてついてないじゃん。
だってカンカンは私の事が好きなんでしょ?
だからこうやって私と寝てるんだよね?
違うの?
何度も大好きって言ってくれたじゃない。
あれ、嘘なの?
あれれ怒るの?
それっておかしくない?
カンカン、おかしいよね。
ねぇ、おかしいよね」
「ねぇ、カンカン。
答えてよ」
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vol.9
Dearキョウちゃん
会って話しがしたい。
二人で会って貰えないかな?
ミサワ
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vol.10
Dearキョウちゃん
話しがしたい。
二人で会ってくれない?
ミサワ
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vol.11
Dearキョウちゃん
怒ってるのかな?
返事下さい。
ミサワ
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vol.12
Dearキョウちゃん
キョウちゃん。
ミサワ
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vol.13
ミサワくん
迷惑だからもう机に手紙を入れないで下さい。
金輪際私に関わらないで下さい。
江藤京子
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vol.14
放課後、帰ろうとしてたら、友達からお菓子を貰った。
カンカンが大好きなお菓子。
これあげたらカンカン喜ぶだろうな、そう思ったら自然と笑ってしまった。
でもふと今日の予定を思い出す。
そうだ。今日は病院の日だ。部活には行けないんだ。
帰りに1年生の下駄箱の所に行って、カンカンの下駄箱をあけてそのお菓子を入れた。
そしてそこにそれがあった。
見た途端、それが何なのかは想像が出来た。
アタマに血が上った。
その手紙を持ってトイレに駆け込んで、勢いよく開いて読んだ。
カンカンの事を「ミサワくーん」となれなれしく呼ぶ京子という女の脳天気さが憎いと思った。
もう病院なんてどうでも良かった。
急いで職員室にいって、生徒名簿を借りて、
片っ端から名簿の中の「京子」って名前を探した。
4人の京子がいた。
そして1人目の京子、江藤京子の下駄箱の中に、
そこにまた、六角形に折りたたまれたルーズリーフを見つけた。
Dearキョウちゃん
親愛なるキョウちゃんって書かれた手紙が。
見た事がある文字で。
親愛なる?
手紙の行間には私には感じた事がない「大好き」がつまっていた。
あとからあとから涙が溢れた。
どれくらい経っただろう。
あたりはすっかり暗くなっていて、
シトシトと梅雨の雨があたりを覆っていた。
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